2020年3月31日火曜日

アテローム血栓性脳梗塞に対するアルガトロバンは予後を改善しない

Outcomes of Argatroban Treatment in Patients With Atherothrombotic Stroke
Observational Nationwide Study in Japan

Stroke. 2016;47:471-476.

アテローム血栓性脳梗塞に対しては日本ではアルガトロバンが使用されることが多い。
脳卒中ガイドライン上ももちろん推奨されているが、実際に転帰を改善するかは調べられていなかった。
今回の研究は日本の約2万人のデータを扱い、アルガトロバン使用群 vs. 不使用群の傾向スコアマッチングを行なった後方視的研究。
結果、アルガトロバンは退院時mRSも改善しないし、出血もおこさないという衝撃の結果であった。
これって意味あるのか?
脳卒中ガイドラインでのアルガトロバンの推奨
脳卒中ガイドラインでのアルガトロバンの推奨
ガイドラインに記載されているRCTは1992年のstudy
Effect of the thrombin inhibitor argatroban in acute cerebral thrombosis.
Semin Thromb Hemost. 1997;23(6):531-4.
時代的背景もあるが、メインアウトカムでmRSの比較が行われているわけではない

アルガトロバンは退院時mRSを改善しない

今回は、傾向スコアマッチングにより各群2289人に調整されている。
アルガトロバンの研究で退院時のmRSの比較
退院時のmRSの比較
退院時のmRSは不変(adjusted odds ratio, 1.01; 95% CI, 0.88–1.16)

アルガトロバンに効果はないという結果
アルガトロバンに効果はない

そもそもアテローム血栓性脳梗塞に対する抗凝固薬のエビデンスが存在しない

思い返してみればATBIに抗凝固薬は使わないし、
コクランでも否定されている。
当然欧米での推奨はない

Anticoagulants for acute ischaemic stroke
Cochrane Systematic Review
. 2015 Mar; 2015(3): CD000024.
死亡率に有意差なし

慣習的に使われている怖さ

日本の神経系医師のどれほどがこの論文を知って治療しているのだろうか
今回の研究結果は、使用しないほうが良いというエビデンスではない。
ただし、使っても対して予後を改善しないものを、いつも使っているから使うというのはただただ医療費を無駄遣いするだけなのではないか。

エダラボンもそうだが、本当に効果がある薬はやはり海外でも使われているだろう。
そして、日本でしか使われていない薬というのは、エビデンス含めよく吟味する必要がある。

アテローム血栓性脳梗塞にはやはりアスピリンやクロピドグレルがBest treatmentなのだろう。
ガイドラインでの推奨とはいえ抜け穴が多くある。
原著にあたり、どの程度根拠のある治療か検討することはやはり重要だ。

2020年3月30日月曜日

ICPモニターが本当に必要なとき

Guidelines for the Management of Severe Traumatic Brain Injury, Fourth Edition

Neurosurgery 0:1–10, 2016

日常診療でICPモニターが必要になる機会はそうそう少ない。
実際に必要な機会を考えるためにガイドラインでの推奨を再度振り返ってみた。

ガイドライン上のICPモニターの推奨
ガイドライン上のICPモニターの推奨

ガイドラインでのICPモニターの推奨定義

・GCS 3-8でCT上異常所見があるとき
・重症頭部外傷でCTが陰性で、①40歳以上②除皮質/除脳硬直③sBP 90mmHg以下時 のうち2項目以上満たすとき

実臨床に沿って考えると

日本であれば意識障害があってCTで異常所見があった段階で減圧開頭をしているだろう。
CTがネガティブだった場合に脳浮腫が増悪するとなると、それはびまん性軸索損傷ということになる。
重症頭部外傷でびまん性軸索損傷のみを呈している状況は極めて稀であろうし、そもそも予後は悪いかもしれない。
ただし、考えられることとしては小児・若年例で頭部外傷により原因のはっきりしない意識障害を呈している際だろう

ICPモニター自体は留置は15分程度だし、侵襲のリスクも比較的少ない。
重症頭部外傷が多くくる病院では留置してもいいのかもしれない 


感覚的には日本は若者で薬中の飛び降りによる意識障害が多かったりするので注意が必要だ

2020年3月29日日曜日

経鼻下垂体手術はCOVID-19感染のリスク

2020/03/25 脳神経外科学会から経鼻下垂体手術のCOVID-19感染の危険性についての通達が出ました。

脳神経外科学会:経鼻下垂体手術はCOVID-19感染のリスク
脳神経外科学会のホームページ
http://jns.umin.ac.jp/topics/20200325/10938

具体的な内容は以下です

・武漢で最初の感染拡大が内視鏡による下垂体腺腫の手術によるもので、手術室に出入りした14人が感染した
・眼や鼻咽頭の手術ではウイルスの暴露が多い
・N95やゴーグルだけで感染が予防できない可能性がある
・諸外国では経鼻手術は緊急例のみとし、その他は事態が収束するまで待機している

経鼻手術によるCOVID-19感染リスクの現場からの報告
経鼻手術による感染リスクの現場からの報告
http://jns.umin.ac.jp/jns_wp/wp-content/uploads/2020/03/This-is-what-I-got-from-the-American-rhinologic-society-discussion.pdf

脳神経外科には影響しないと思っていましたが、まさかこんなことになろうとは。

2020年3月28日土曜日

健康を保つ上でのランニングを続ける方法

脳神経外科医たるもの日常が忙しくて時々動悸とかめまいなんかしちゃったりして「このままやっていけるのか」と不安になることがあります。
中にはエネルギーの塊みたいな先生がいて、何歳になっても不眠不休で働けるのですが、
多くの人はそうではありません。
とはいえ運動も定期的にできず、ジム通いも続かず、日々を過ごしている人は多いのではないでしょうか

最近、ランニングを継続的にできているので、なぜうまくいっているのか考えてみました。

必要なセット

・Nike Run Clubアプリ
・イヤホン
・ランシューズ
・ランニングポーチ
・ジャージ
・スポーツタイツ
です

詳細は下に書いてあります。
これをいつも定位置におくことが重要です!
少しでも手間がかかると人間動けません。
定位置を決めて、置いておきましょう。

Nike Run Clubアプリ

Nike Run Clubアプリの画像
Nike Run Club
https://apps.apple.com/jp/app/nike-run-club/id387771637

どのアプリでもいいんですが、このアプリがおすすめなのは、走行経路をマップで保存してくれるところです。
また、1kmごとにアナウンスが入るのでどのくらい走ったかの目安がわかります。
Nike Run Clubアプリの画像
走行距離と時間がわかる
音楽はApple musicやSpotifyに入っている人はそのまま流せますし、入っていない人は30分ぐらいのランニング用音楽を準備しておきましょう。

ランニングポーチ

これがおすすめです。
というか、これがなかったから今までiphoneがゆっさゆっさ揺れて走りにくくて、
走らなくなってしまったといっても過言ではありません。
必須アイテムです。
iphoneと鍵が入るので、それだけ持って走り出します。
ランニングポーチ
Amazon¥1,199 

スポーツタイツ

これがあると、寒いという理由で走らなくなるのを阻止できます
この上に短パンでも走っていれば冬でも寒くないです。
スポーツタイツ
Amazon¥1,390

走る前に

走り出す前に、風呂を入れます。
帰ってくる頃にはそのまま風呂に入れるように、準備しておきます。
汗だくで風呂が入るのを待つのは地獄です。
走り出す前に、風呂のボタンを押しておきましょう。

走る距離

5km未満でいきましょう
だいたい30分以内です。
疲れたら歩きましょう。
もともと運動している人は走り続けれるのですが、それができないから習慣になっていないんです。
無理せず歩けましょう。
そのうち走り続けれるようになります。

走る頻度

週1-2回しか走りません。
長く運動できなかった人間が、それ以上のペースでやっても続きません。
ランニングで速度を競っているわけではありません。
続けることが大事です。
ゆるくいきましょう。

走っているときに考えること

臨床的な疑問晩飯を考えています。
1日の仕事を振り返って、臨床的な疑問を整理する時間にしています。
思いついたいいアイディアは帰って論文を検索したり、調べたりします。
晩飯は、通りすがりのレストランとかをみながら考えあぐねます。

晩飯は食べたいものを食べること

よくタンパク質多めとか、食事制限とかいいますが、
走ったこと自体が健康なので、それ以上にがんばる必要はありません。
むしろ厳しくすることでそもそも走らなくなってしまっては元も子もありません。
まずは、走って、食べたいものを食う。
習慣化したら、食事とかも考える余裕が出てくるはずです。
最初から頑張る必要はありません

ランニングの流れのおさらい

景色がいいところで走りたい
景色がいいところで走りたい
なぜ、突然ランニングが継続的にできるようになったのかをまとめます
・いつでもすぐランニングできるようにものを定位置においておく
・走り出す前に風呂をわかす
・走るのは5km以下、30分未満
・走っている間に臨床的な疑問や晩御飯を考える
・帰って来たらそのまま風呂に入る
・晩飯は食べたいものを食べる
・週に1-2回しか走らない
このがんばらない流れがよさそうです。

2020年3月27日金曜日

仮性動脈瘤に対する生食注入療法

Treatment of Post-Catheterization Femoral Artery Pseudo-Aneurysm With Para-Aneurysmal Saline Injection

Am J Cardiol. 2008 May 15;101(10):1418-22.

血管内治療の合併症で鼠蹊部の仮性動脈瘤がある
循環器内科では過去に多数の症例報告があり、エコーガイド下での圧迫や最終的には心臓血管外科による瘤の切除もしくは人工血管バイパス術などがある。
その他の手段として生食注入療法というものがあり、それを扱った論文。

仮性動脈瘤64例に対して生食注入を施行
具体的には生食25-60mLを投与
92%が閉塞を確認
仮性動脈瘤に対する生食注入の模式図
仮性動脈瘤に対する生食注入の模式図
仮性動脈瘤へ生食注入前のエコー所見
生食注入前のエコー所見
仮性動脈瘤へ生食注入後のエコー所見
生食注入後のエコー所見
合併症は数をこなせば必ず経験するもの
十分なICとその際の対応を事前に知っておくことが重要である

2020年3月26日木曜日

CTは"撮影"、MRIは"撮像"を使うべき

脳神経外科医の使うCT, MRIの「撮影」「撮像」がまちまち

学会発表はもうバラバラです。
日本語の論文も撮影と撮像がバラバラです。
バラバラということは、明確な決まりがないであろうということは想像できますが、
どちらかを使わないといけないので、少し調べてみました。

CTとMRIの日本語訳
日本放射線腫瘍学会の用語集
日本放射線腫瘍学会の用語集
https://www.jastro.or.jp/medicalpersonnel/glossary/

放射線腫瘍学会の用語集には

computed tomography
コンピュータ断層撮影[法]

magnetic resonance imaging
磁気共鳴撮像[法]
とあります。

そのため以前、放射線科のエキスパートに
CTの場合は「撮影」、MRIの場合は「撮像」
と教えられたことがあります。
それはそもそもの日本語訳が上記の定義だからでした。

とはいえ、慣習的には「撮像」なんてほとんど使わないので、
どちらも「撮影」でいいような気もしますが、定義上はMRIの場合は「撮像」のほうが正しいようにも思います。

みなさんはどう使い分けていますでしょうか?

2020年3月25日水曜日

外傷性くも膜下出血による脳血管攣縮

Traumatic brain injury and intracranial hemorrhage–induced cerebral vasospasm: a systematic review

Neurosurg Focus 43 (5):E14, 2017

時々みるtSAH後の脳血管攣縮とそれに伴う脳梗塞について調べてみました。
posttraumatic vasospasmと言うみたいです。
システマティックレビューではありますが、あまり詳しいことはわかっていないのが現状です。
外傷後の仮性動脈瘤とspasmの症例
外傷後の仮性動脈瘤とspasm

疫学

・真の発生率は不明
・5%から18.6%という報告はある

病態

・血液や外傷によって引き起こされる

経過

・外傷後2-3日で起きる。SAH後のspasmよりも早期に起きる
・5日以上続くことがある

予測因子

・重症頭部外傷
・発熱

治療

・aSAHに準拠


全体的にaSAHのspasmと同様の病態なのでしょうか。
真に脳血管攣縮をきたしている場合は、保険適応外ですが、エリルやPTAも治療の選択肢としては悪くないと考えられます。
髄膜炎に伴うspasmも同様の治療が現状bestかもしれません。

2020年3月24日火曜日

市中病院の脳神経外科医が国際学会に行く意味

ここ2回続けて国際学会に行って、色々と考えさせられた。
国際学会と聞くと"良い印象"を受けることが多く、期待しすぎていたのかもしれない。

大学病院の先生方が国際学会に行くのは、共同研究のためであったり、お世話になった海外の先生への挨拶だったり、ネットワーキングが主な所なのではないだろうか。

市中病院の一脳外科医は研究で生計を立てている訳でもなく、
そもそも研究なんてしなくても仕事は問題なくできる。
そんな中で、国際学会に行く意味を再度検討してみた。

・海外旅行に行く正当な理由になる

飛行機から見える富士山
飛行機から見える富士山
脳神経外科医なんてそうそう長期休暇はない。
海外旅行だって行けるチャンスなんて限られている。
国際学会は海外旅行に行く正当な理由になる。
ただし、開催場所は限られているので、行きたい国に行けるとは限らないのが辛い所。
American Airlineの飛行機
American Airlineの飛行機

・仕事のモチベーションがあがる

World Stroke Congressの様子
World Stroke Congressの様子
国際学会で発表したという達成感や"世界的な何か"をやったという達成感は自信につながる。
多種多様な国の人々が実は同じようなことを考えていて、同じ研究をしていたり、
日本では絶対にできないような研究をしている海外のチームがあったり、
毎日同じことの繰り返しである仕事をいろんな視点で見つめ直す良い機会になる。
International Stroke Conferenceの様子
International Stroke Conferenceの様子
・論文執筆のペースメーカーになる
ISCなどは雑誌"Stroke"に投稿する上での登竜門と言われる。
日本の学会は査読もなく、落ちもしないので論文執筆においては意味がない。
論文を書く上でのモチベーションを保つのは非常に大変。
中間地点として国際学会の提出締め切りはとても良いペースメーカーになる。

11th world stroke congress
11th world stroke congress

・世界の中での日本を知る

日本には存在しない脂の多いSushi roll
日本には存在しない脂の多いSushi roll
先進国であっても文化は大きく異なる
日本で当たり前のことが、海外では当たり前ではなく、
海外で当たり前のことが、日本では素晴らしいことであったりする。

毎回海外でラーメンを食べて後悔している。
後悔するとわかっていても、興味本位で店に入ってしまうのだから面白い。

海外に行くことで、日本の良さに、現状の良さに気づく瞬間がある。
そういう刺激は海外に行かないと得られないものなのだろう。
本物のハンバーガー
本物のハンバーガー
市中病院の脳神経外科医が国際学会に行く必要はない。
しかし、論文を書けるぐらい仕事に熱意を持っていたいし、
国際学会に行って最先端の学問に興味を持って働き続けていたい。
その、通過点として国際学会に行くというのは数少ない有用な手段の一つなのではないかと思う。

医師という高度に専門性の高い職業はどうしてもルーチンワークが多くなる。
どんな症例がきてもルーチンのように対応できて初めて安定した診療ができていると言える。
しかし、一度ルーチン化してしまうと刺激がなく単調な生活になってしまう。
そこに少しでも学びの姿勢を持って刺激を受け続けることができれば
良き医師になれるのではないかと思う。

2020年3月23日月曜日

脳神経外科術後の鎮痛薬はNSAIDsがいい

Pharmacological interventions for the prevention of acute postoperative pain in adults following brain surgery

Cochrane Systematic Review - Intervention Version published: 21 November 2019

脳外科術後の患者はそれほど激しい疼痛の訴えは少ないように思う。
術後に麻酔科の先生がアセリオを落としたりしていて、これって意味あるのかな?と思ったので調べてみました。

実に161ページもあるコクランレビュー
NSAIDs, デクスメトミジン、頭皮ブロック、頭皮浸潤麻酔、プレガバリン、アセトアミノフェンで検討された
エビデンスが確かな結論だけかいつまんで記載します

脳神経外科術後の鎮痛薬はNSAIDsがいい

脳神経外科術後の鎮痛薬はNSAIDs
術後疼痛へのNSAIDsのレビュー
・NSAIDsは最大24時間の疼痛を改善する(エビデンスレベル高)
・デクスメデトミジンは6時間の疼痛を改善する(エビデンスレベル中)
アセトアミノフェンは鎮痛効果を示さなかった(エビデンスレベル高)

個々の論文を読んでいないので投与量などの検討は必要ですが、
アセトアミノフェンよりはNSAIDsの方が効果がありそうです。

2020年3月22日日曜日

ロボット支援脳血管内治療

First-in-human, robotic-assisted neuroendovascular intervention

J NeuroIntervent Surg 2020;12:338–340.
先日のISCで発表されていたロボット支援脳血管内治療が論文になっていた
しかも脳定動脈のステントコイル。
腹腔鏡と同様、予後は変えないが術者負担は大きく減る可能性があるだろうし、
AI, リモートオペネーション, 放射線被曝回避など今後の技術的発展も期待される

ロボット支援血管内治療
basilar sidewall type

ロボット支援血管内治療の機械
ロボット支援血管内治療の機械
使用されたロボットはCorPath GRX Robotic System
現在はシーメンスに買収され、一事業として行われている
ロボット支援血管内治療の機械
ロボット支援血管内治療の治療の様子
術後の画像をみると、こんなに甘くていいのかと思ってしまうが、
日本人はむしろ詰めすぎなのかもしれない。
まだ準備の工数が多く、完全なチームワークが必要とのことだが、いずれ簡略化されていくだろう

先述したが、ロボット化の将来的メリットははかりしれない
・治療の補助もしくはオートメーション化
・遠隔治療
・放射線被曝回避
技術的発展を考えると生きている間には普及しそうだ。


2020年3月21日土曜日

コクランライブラリの一時無料化

コクランライブラリが一時無料化します

コクランライブラリはエビデンスレベルの高いシステマティックレビューを提供するイギリスの組織です。
作られた背景としては医療費を抑制するために、不要な医療行為をエビデンスに基づき減らしていこうという意図があるため、ネガティブ結果が多いです。

2020/3/18 COVID-19への対応の一つとして、コクランライブラリの無料化が発表されました。
コクランライブラリのホームページ
コクランライブラリのホームページ
https://community.cochrane.org/news/update-cochranes-covid-19-response?fbclid=IwAR34ewysxk5YvjJQJcK6IYwGt2bhlsicgD1lnbas1tcS3MppuPIUoYcbgWk

コクランライブラリ無料化の文言
無料化の文言
コクランライブラリのNeurologyの検索欄
Neurologyの検索欄
やはり外科領域はかなり少ないですが、最近見ていなかったのでざっと目を通してみたいと思います。

2020年3月20日金曜日

セフェピム脳症の症状

Characterizing Cefepime Neurotoxicity: A Systematic Review

Open Forum Infect Dis. 2017 Oct 10;4(4):ofx170.

セフェピムの中枢神経症状は有名ではありますが、
具体的にどのような症状が出るのかはあまり知られていません。

198例のReviewです

セフェピム脳症の患者背景

・平均年齢は67歳で、患者の87%が腎機能障害あり
・投与量の中央値は4g/day投与の髄膜炎量の様子
・投与後5日で発症
・発生率は480コース中1回の頻度であった

セフェピム脳症の患者背景
セフェピム脳症の患者背景

セフェピム脳症の症状

・8割が意識レベルの低下
 (従名が入るレベルからcomaまで)
・5割がせん妄
・4割が不随意運動
・3割がNCSE
・1割が痙攣
・1割が失語
セフェピム脳症の症状
セフェピム脳症の症状
失語が1割程度と考えると、多くの意識障害は発語ができるレベルのようです
日本語のケースレポートを見ても、マイルドな意識障害が特徴の様子
また、調べた範囲ではMRI上も特徴的所見は出ないようだ

脳外患者は意識障害を呈しやすく鑑別が複数にまたがるが、
セフェピム使用例は別抗生剤への変更は有用と考えられる

2020年3月19日木曜日

脳卒中後の嚥下障害に対してカプサイシンが有効かもしれない

Effects of capsaicin on swallowing function in stroke patients with dysphagia: A randomized controlled trial

Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 28, No. 6 (June), 2019: pp 1744 1751

脳卒中後によく誤嚥する患者がいる。
入院中の誤嚥は減らしたいし、嚥下障害は患者本人にとって非常に重要なプロブレムである。
以前、脳卒中後の患者にカプサイシンシートを投与しているのを見たことがあり効果があるのか調べてみた。

脳卒中後の嚥下障害に対してカプサイシンが有効かもしれない

中国の小規模単施設RCT
n=69でカプサイシン投与 vs. placebo群で3週間投与し比較
小規模ではあるが、一応有意差は出ている

脳卒中後の嚥下障害に対して唐辛子が有効である結果
Eating Assessment Toolでは有意差あり

EAT-10の内容
EAT-10は問診のようだ

脳卒中後の嚥下障害に対して唐辛子が有効である結果
水飲みテストの結果

誤嚥性肺炎や予後には影響しないのか

今回はRCTではあるが、アウトカム設定があまりにも弱い
嚥下が改善しても、誤嚥性肺炎や予後の改善が示せないと臨床応用はしにくい
そもそも嚥下障害のある患者の予後は極めて厳しいものであり、その中で有意差を出すのは難しいだろう
誤嚥性肺炎が減ったり、食事の楽しみを長く過ごすという意味では非常に有意義だと思う
あとは、今回短期的な使用での結果であったが、長期的な使用でも効果が出るのかも気になる

嚥下障害は終末期に誰もが抱えるBig Themeであり、チャレンジングな研究に期待されたい。

2020年3月18日水曜日

細菌性髄膜炎に対する髄液検査の感度・特異度

脳室ドレナージが入っている患者で発熱が続く患者は、

髄膜炎を来していないかを確認する目的で髄液検査をとることがある

ドレナージが入っているので、髄膜炎らしい所見である初圧はあてにならず、脳出血後なので項部硬直もあてにならない。
また、基本的になるとすれば細菌性のみで、ウイルス性などの検査前確率は極めて低いという条件だ。

明らかに髄膜炎の所見を呈しているものは抗生剤加療を開始するものとして、
出血後、術後であれば色も髄液細胞数も蛋白も微妙な値が出ることがある。
G染や特殊な髄液検査(髄液CRPなど)を提出せずに、細胞数・蛋白・糖のみでどの程度の値が決定的な所見なのか調べてみた。

細菌性髄膜炎のガイドラインにある髄液所見
細菌性髄膜炎のガイドラインにある髄液所見

細菌性髄膜炎ガイドライン内での記載

ガイドライン内にある感度・特異度の引用は以下のみであった
「髄液糖/血糖比が0.4以下の場合,感度80%・特異度98%との報告」

Cerebrospinal fluid as a diagnostic body fluid
Am J Med. 1983 Jul 28;75(1B):102-8.

髄液糖が下がっていれば、それ単独で髄膜炎として治療を開始してよいだろう。

他の予測因子

他の予測スコアはこちら

Differential Diagnosis of Acute Meningitis
An Analysis of the Predictive Value of Initial Observations
JAMA. 1989;262(19):2700-2707.

細菌感染の個々の予測因子
・髄液糖1.9mmol / L未満
・髄液/血糖比が0.23未満
・髄液蛋白が2.2g / L以上
・細胞数が2000×10^6 / L以上
・多核球が1180×10^6 / L以上

どれも厳しい条件だが、一つでも当てはまれば髄膜炎らしいものとして言っていいだろう。

髄液乳酸値の感度・特異度が極めて高いという報告があるが
それはまた別で扱うこととする。

2020年3月17日火曜日

慢性硬膜下血腫に対する五苓散のエビデンスは確立していない

The Effect of Goreisan on the Prevention of Chronic Subdural Hematoma Recurrence: Multi-Center Randomized Controlled Study

Journal of Neurotrauma VOL. 35, NO. 13
Amazonで買える五苓散
五苓散

普段使っている五苓散のエビデンスはどの程度なんだろうかと思い、pubmedで"Goreisan" "Chronic Subdural Hematoma" "Randomized Controlled Trial"で検索した。
するとこの論文しか出てこない。

日本の単施設RCT。五苓散3包分3を12週継続し血腫体積の減少を比較
結果、有意差なし

慢性硬膜下血腫に対する五苓散のエビデンスは確立していない


¥4,300

現在進行中のRCT

これだけ慣習的に使われているものだから、nが増えれば有意差が出るのではないか、とも思われる
調べたところ以下2つのRCTが進行中

漢方薬による慢性硬膜下血腫術後再発率低下の前向き臨床研究
https://rctportal.niph.go.jp/s/detail/jr?trial_id=jRCTs051180131

五苓散投与の慢性硬膜下血腫再発予防効果に関する研究
https://rctportal.niph.go.jp/s/detail/um?trial_id=UMIN000010006

しかし、どちらもn=200~300程度。
今回の研究結果を考えるとこれで有意差が出るとは到底考えがたい。

根拠なき治療はどこまで許されるのか

大規模RCTが行われない理由として行うことによる製薬会社のメリットが少ないのであろう
・確実な結果を出すためには巨額の資金を必要とする
・しかし、すでに日本では一般的に使用されており、製薬会社としてはエビデンスを出すほどのメリットがない
・万が一有意差が出なかった場合は、使用が減るなどのデメリットしかない

しかし、意味のない治療は極力避けたい
医師主導でエビデンスをどんどん出していけたら
確かな治療ができるだろう

たかが慢性硬膜下血腫、されど慢性硬膜下血腫

2020年3月16日月曜日

脳卒中予防の糖尿病薬にはピオグリタゾンがいい

Effects of Pioglitazone in Patients With Type 2 Diabetes With or Without Previous Stroke Results From PROactive (PROspective pioglitAzone Clinical Trial In macroVascular Events 04)

Stroke. 2007;38:865-873.

脳卒中ガイドラインにも書いてありますが、二次予防の糖尿病薬にはピオグリタゾンがいいということは、意外と知られていないようです。
実は1薬剤のadd onで脳卒中の予防を証明したRCTは唯一ピオグリタゾンのみ

大血管疾患の証拠がある2型糖尿病患者5238人を対象
add onをピオグリタゾン vs. placeboで比較
追跡期間は平均34.5ヶ月
脳卒中のサブ解析を行った論文

脳卒中既往のある患者の二次予防の糖尿病薬にはピオグリタゾンが再発予防になる

脳卒中既往のある患者ではピオグリタゾンは脳卒中予防効果がある
脳卒中既往のある患者ではピオグリタゾンは脳卒中予防効果がある

ピオグリタゾン投与での脳卒中再発までの期間
上段が脳卒中既往あり、下段がなし
上段では脳卒中発症までの期間は優位に延長

ピオグリタゾンの脳卒中予防効果とベースラインの変化
ピオグリタゾンは優位にHbA1cを減らす

血糖降下自体が脳卒中予防になるのに、なぜピオグリタゾンだけが有効性を証明できたのか

色々と疑問に残るstudyです。
Baselineの変化としてはピオグリタゾン群が優位にHgA1cを低下させ、良好な血糖管理となっていることが示唆されます。
しかし、それは他の糖尿病薬を扱ったRCTでも同様の結果でした。
他の糖尿病薬を扱ったRCTでは脳卒中予防を統計学的に優位に証明できませんでした。

理由としていくつかのアイディアは存在します。
例えば、ピオグリタゾンの抗炎症作用が血管の加齢を抑制し、脳卒中を予防しているという基礎研究もあります。

真偽は現時点では誰にもわかりませんが、少なくとも有効性が証明された薬ですので、
案外使われていないので使って見てもよいのではないかと思っています。

2020年3月15日日曜日

外視鏡 ORBEYE

最近の流行 外視鏡

中でも注目されているのがソニーとオリンパスの合同会社 ソニー・オリンパスメディカルソリューションズ株式会社が作ったORBEYE
ソニーの4Kとオリンパスの内視鏡技術が融合して初めて完成した新しいタイプの顕微鏡です。
価格は通常の顕微鏡と同様5000万

ORBEYEの画像
ORBEYE本体

ORBEYEの魅力
カメラの位置スペースを取らない

実際に見てみたメリット

・術者の姿勢が崩れない
・超大型4Kディスプレイのため大人数で確認できる
・画像が精細でこれまで見えなかったような血管が見える
といったところでしょうか。

予想される問題点

・3Dメガネは長時間の疲労になりそう
・超大型ディスプレイの置き場に困る(助手用のモニタの場所も考慮が必要)
・見た目がかっこよくない
これまでマイクロで不自由なくやってきているので、導入時には色々と負荷がかかりそうです

今後の予想

画像認識が進む昨今、姿勢や超大型ディスプレイだけのメリットではなく、
今後、術野の自動認識と手術ナビゲーションが進んでいくのではないでしょうか
・神経、血管の同定
・腫瘍の位置表示
などです。
オリンパスの内視鏡はすでに画像認識が備わっていますし、
そうした未来の先駆けとして、ORBEYEが存在するのではないか、と思っています。

2020年3月14日土曜日

脳出血に対するトランサミンは有用かもしれない

Tranexamic acid for hyperacute primary IntraCerebral Haemorrhage (TICH-2): an international randomised, placebo-controlled, phase 3 superiority trial

Lancet 2018; 391: 2107–15

トランサミンの効果を検証した多施設共同RCT
発症8時間以内の脳出血に対してTXA1g+8時時間後に1g とplacebo群で比較

脳出血に対するトランサミンの効果
トランサミンで予後かわらず
脳出血に対するトランサミンの効果
サブグループ解析では、全体としては優位傾向にはあるが・・・

トランサミンで予後かわらず

結果として予後に影響するほどではなかった
サブグループ解析では血圧<170mmHg群でのみ優位差がついたが
トランサミンの効果と説明できる項目とは考えにくい
効果は優位傾向に止まり、科学的なエビデンスとしては弱いとしか言わざるを得ない
ただし、TXAは慣習的にどこでも使われているし、合併症がなければ多少の効果を狙っての使用は妥当とも考えられる

気になったのは投与方法で、
メインへの混注している病院が多い中、1g volus+8h後再投与のレジメンのどちらがいいのか。
また、アドナも同様に止血効果はないのかなどもきになるところ

案外身の回りの当たり前でもエビデンスの蓄積は少ない
それは、統計の進歩によりエビデンスの証明に莫大な予算を必要とし、
その予算に見合うだけの価値が研究になければ慣習的な使用で製薬会社は困らない
という問題もあるのかもしれない。 

2020年3月13日金曜日

Wingspanは症例を選べば術後合併症は少なくて済む

WEAVE Trial
Final Results in 152 On-Label Patients

Stroke. 2019;50:889-894.

SAMMPRISで散々な結果を出したWingspanの市販後調査
症例を選べば術後合併症は少なくて済むという結果になった

症例を選べば術後合併症は少なくて済む

適応基準
・22歳から80歳
・症候性頭蓋内アテローム性動脈硬化狭窄症 狭窄率が70%から99%
・mRS≦3
・狭窄病変の血管領域で2回以上の脳卒中発症、内科的治療中に少なくとも1回の脳卒中発症
・治療/発症から8日以上経過

平均して80%狭窄がステント留置後は30%ほどに
Wingspan術前後の狭窄率
術前後の狭窄率
Wingspanの周術期合併症率
周術期合併症は少ない
Wingspan過去の結果との比較
過去のStudyと比べても合併症は少ない

SAMMPRISで適応基準と術者の技量が重要であるという強いメッセージが出たためか、
市販後調査では周術期合併症は許容できる範囲に収まっている
現在、長期経過も医師主導で追跡されているとのこと(WOVEN trial)で
結果が待たれる